公園の女

オリジナルストーリー

高校の登下校の途中に、駅から自宅までに児童公園があった。
そこを通るとショートカットできるので、いつも通り抜けていた。

日がかなり短くなってきた一年生の二学期半ば頃。
その日は所属している剣道部の練習で少し遅くなり、すでに陽は落ちて暗くなっていた。
当然、ショートカットしようと公園に足を踏み入れて、半分あたりまできたときだ。
ぞくりと肌に粟が立ち頭髪がざわざわと蠢くような感覚に襲われる。
どんよりと澱んだ空気が全身にまとわりついてくる。
(まずいな……)
見ると木の下に黄色いレインコートを着た女が立っていた。
雨などもう何日も降っていないし、当然今日も快晴だ。
フードを被っているせいもあるが、黒い霧がかかったように顔が見えない。
彼女は生きた人間ではない――俺は幼い頃から人ならざる存在が視える体質なのだ。
さらに、剣道部に俺より強い霊感体質の先輩がいて、
その人の能力に共鳴するように俺の力も高まっていた。
あれは『魔』だ。
それもかなりタチの悪いものだ。

このまま進むにしても戻るにしても、ちょうど公園の真ん中あたりの位置だ。
引き返すか、知らん顔して通り過ぎるか……。
立ち止まって躊躇していると、いつのまにか後ろからやってきた同い年くらいの少女が俺を追い越していく。
(え?)
レインコートの女がすーっと横滑りするように少女に近づいていく。
(やばい!)
そう思ったときにはもう女は少女に追いつき、ちょっと背を屈めるようにして少女の耳元に顔を寄せている。
なにか話しかけているようだが、少女には見えたり聞こえたりしていないらしく、
ネットを見ているのか友達とメールでもしているのか、スマホに目を向けたままだ。
しばらく女は少女に話しかけていたが、反応なしと見るや、
『チッ!』
と、俺にまで聞こえるほど大きく舌打ちすると、また、すう、と横滑りして木のたもとへと戻っていく。
いまから引き返すと、視えていることに気づかれそうだ。
覚悟を決めて歩き始めた。
スマホを見ているふりをして視界の隅で確認する。
フードの奥はやはり暗闇が立ち込めていて表情は見えなかった。
が、女は立ったまま近づいてこない。
(どういうことだ……?)
結局女は立ったまま動かず、何事もなく公園を抜けた。
どうやら、アレは女性だけに憑こうとするらしい。
だが、さっきの女の子に何もできなかったところを見ると、『視えない人』には手出しできないらしい。

しかし、ほとんど毎日ここを通っているのに、あんなタチの悪いのを見たのは初めてだ。
この公園に執着しているのではなく、あちこち彷徨って『視える女性』を探しているのだろう。
視える人間を見つけて何をする気かは知らないが、振りまいている負の佇まいからするとロクな目的ではなさそうだな。
とりあえず誰にも迷惑をかけず、どこかへ消えちまってくれたらいいな、思いつつ公園を後にした。

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