私の祖父から聞いた話。
昭和40年代、小学校低学年だった祖父の家の周囲には、
空き地やら雑木林がたくさん点在していた。
そのなかでもすこし大きめの雑木林には、ある噂があった。
昭和初期の頃、そこで女性が自ら命を絶った。
それ以来、女性の霊が雑木林内を彷徨っていて、
彼女と遭遇すると、あの世へと連れて行かれてしまうのだ、と。
そんな噂に子供たちは怯えて雑木林には近づかなかった。
「実際、あそこの空気だけ、夏でもひんやりと重いんだ。夕暮れ時に近くを通りかかると、風に揺れる枝の擦れる音が、『おいで、おいで』という声に聞こえるような気がしてな」
ある日、友だちのオサムがその雑木林でかくれんぼをしようと言い出した。
祖父と他の友だちは尻込みしたが、
「あんなのただの作り話だ」
と、笑い飛ばし、祖父たちを強引に誘った。
最初は乗り気ではなかったが、いざ遊び出してみると面白く、
いつしか噂のことなど忘れて夢中で遊んでいた。
鬼を交代して何周もしているうち、オサムがどうしても見つからなくなった。
最初は、いつまで隠れてるんだ、と、あちこち探したが夕方になり、夜になっても見つからない。
騒ぎになって近所の大人たちや警察も探したが見つからなかった。
そして3日後、オサムが雑木林からひょっこりと帰ってきた。
もちろんあれだけ大勢の大人や警察までが捜索したのだから、雑木林にいたはずがない。
しかし本人はちょっと隠れていただけで、3日も経っているとは思わなかった、という。
祖父がオサムに、雑木林の中でなにをしていたのかと聞くと、
「きれいな女の人に、雑木林の奥にある家に連れて行かれて、おいしいお菓子を食べさせてもらったり、
面白いお話をきかせてもらったりした」
と答えたことがあった。
そこは昔話に出てくるような外壁に蔦の絡まる洋館だったという。
もちろん雑木林の奥にそんな家などない。
「家の庭には、見たことない色の花が咲いててさ。ずっとそこにいたいような、変な気持ちになったんだ」
普段からよく冗談を言っていたので、祖父を含めた周りの友だちたちは、
「また言ってるよ」と笑って聞き流していたそうだ。
ただ、それまで明るく活発だった彼は別人のようにおとなしくなった。
口数がすくなくなり、いつもなにかを考え込んでいる。
好きだった給食も残し、休み時間は校庭で走り回ることもなくなった。
話しかけても聞こえていないかのようにぼんやりしていたり、
夕闇どきになると、雑木林の方向を眺めている姿が頻繁に目撃された。
そして小学校を卒業する直前のある日、彼は本当に行方不明になってしまった。
いま現在に至るまでオサムの行方は杳として知れないままなのだそうだ。
「あいつはその女性に気に入られてしまったのかもしれんなあ」
祖父はそう言ってちょっと寂しそうに笑った。
夕闇に消えた友達
オリジナルストーリー
