友人のA子から聞いた話です。
A子は大学時代、付き合っていた彼氏と沖縄旅行に行きました。
ただ、彼女の彼への気持ちは冷め切っており、旅行が終わったら別れるつもりだったと言います。
ある観光地で、ふと視線を感じて振り向くと、
坊主頭で日に焼けた褐色の男性が、じっとA子を見つめていました。
背が高くて、くっきりした二重で、とても整った顔立ちだったそうです。
目が合った瞬間、男性は白い歯を見せてニコッと笑ったので、A子も反射的に微笑み返したのです。
そのとき彼が何か話しかけてきて、それに答えるのに一瞬目を離して、
視線を戻すとその男性はいなくなっていたのです。
ほんの一瞬だったのに。
旅行から帰ってすぐ彼氏と別れたんですが、
それから1ヶ月くらい経った頃から、妙なことが続きました。
A子はカフェでバイトをしていましたが、彼女が休みの日に、
「A子のことを探してる男の人が来たよ。めっちゃイケメンで背が高くて、肌が褐色だった」
と同僚に言われたり、大学の友人にも、
「A子のこと知ってるって言う人が来てた。いがぐり頭のイケメンで日に焼けてる人」
と言われたり。
最初は「誰だろう?」くらいに思っていたんですが、
ある日、実家に帰ったら妹に、
「お姉ちゃんがいないときに、すっごいイケメンな人が訪ねてきたよ。
肌が黒くて背が高くて、笑うと歯が白い人」
と言われたそうです。
特徴が全部、沖縄で微笑んだあの男と一致していた──でも一番ゾッとしたのは、妹が最後に付け加えた一言だったそうです。
「その人ね、『お姉さん、いま彼氏はいないよね?』って、ニコニコしながら聞いてきたよ」
A子は沖縄で会ったとき、彼氏と一緒にいたし、周囲にも別れるなんてひとことも言ってなかったそうです。
それからA子は、誰かに見られているような気がしてならなくなったと言います。
今でも、ふとした瞬間にあの笑顔を思い出して、
「次は本当に私の目の前に現れるんじゃないか、と思うと怖いのよ」
と、体を小さく震わせました。

