みいつけた

オリジナルストーリー
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私には不思議な記憶があった。
小学校に上がる前、同い年くらいの仲良しの女の子がいた。
あれは誰だったっけ……あんなによく遊んだのに、
幼稚園や小学校に、その子がいた記憶はない。
卒園や卒業アルバムを見ても、その子はいなかった。
いつから、顔を見なくなったんだろう?
そもそも、もう顔もほとんど思い出せない。
家も近所のはずなのだけど、どこにあったのか覚えていない。
そういえば、なんて名前だったっけ?
どうしてこんなになにもかも思い出せないんだろう?

近所に長い間空き家になったままのおうちがあった。
ほんとうは入っちゃいけないのだけど、よくふたりで忍び込んで、
探検ごっこやかくれんぼをして遊んだり、おしゃべりして過ごした。
最後に遊んだのは……そうだ。
その日、かくれんほをしていて、心配して探しにきたお母さんに、
「こんなとこで遊んじゃだめ」
と叱られ、連れられて帰った。
その子が鬼で、まだ遊んでる途中なのに、って思いながら……。
それからその子と遊ばなくなったような覚えがある。

記憶を頼りにその場所へ行ってみた。
周囲の景色はすっかり変わっていて、
そこは駐車場になっていた。
車はちらほらとしか停まっていない。
確かこのあたりが玄関で、いま車が停まっているところが二階へ上がる階段で……。
ぼろぼろのタンスが置いてあって、ここには押し入れがあって……。
おぼろげな記憶を掘り起こしながら、当時の風景を思い起こしていると。

はっと頭にひらめくものがあった。
お母さんに叱られて帰ったその夜。
近くの女の子がいなくなったと騒ぎになった。
近所の大人たちや警察の人まで大勢で探していたけど見つからなかった。
『その子は怖いおじさんに連れて行かれた』
そんな噂が広がって、私は怖くてたまらなかった。
あの日、一緒に遊んでいたのが私だってバレたら、私のところへも怖いおじさんがやってくる。
話しちゃいけない、覚えていてもいけない。
そんな強迫観念に駆られて、私は無理矢理に忘れようとして……本当に忘れたんだ。

背筋がゾクッとした。
すぅッとシーリングライトの光量が落としたように、周囲が急に薄暗くなった。
誰かが背後に立った。
下はアスファルトのはずなのに、ギシ、と木造の床を踏むような音がした。
くすくす、と笑う声。
そして、小さな女の子の声が聞こえた。

『みいつけた』

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